佐藤友哉「エナメルを塗った魂の比重 鏡稜子ときせかえ密室」


 佐藤友哉の小説を読んだのはこれが初めて。本当は第21回メフィスト賞を受賞した、デビュー作の『フリッカー式 鏡公彦にうってつけの殺人』から読みたかったのだが、近隣の書店で見つからなかったので、2作めからのスタートとなった。


 倉庫のなかに人間の死体が散乱する描写やカニバリズムにかかわるシーンなどはグロテスクで苦手だが、香取羽美の内面描写や古川千鶴がいじめられるシーンには引きつけられた。
 香取羽美が自分の存在感のなさ、取るに足りなさに悩みながら、コスプレをすることでそのキャラに同化して自己表現を成そうとするところは、どこかしら共感できるものがある。私自身、同じような悩みを抱えたこともあるし、もしかすると今でも悩んでいるのかもしれない。コスプレの趣味はないが、華やかで優れた他者に感情移入して、本当の自分から一時的に逃避しようとすることは、今でも頻繁にしているような気がする。


 古川千鶴がひどくいじめられるシーンは、読んでいていたたまれなくなるが、それでも読まずに入られない魔力があった。転校してきた須川綾香によって、古川千鶴はいじめられっ子から解放され、代わりに、古川千鶴をいじめていた秋川がいじめられっ子に認定される。須川綾香が優雅なふるまいで弱者と強者を認定してしていくくだりは、本作で最高に魅せられた部分だった。彼女がやっていることは理不尽で無茶なのだけど、須川綾香の所作からは、有無を言わせないオーラが漂っているし、古川千鶴が救われるとい視点では、須川綾香が正義の使者に見えた。


 ラストは、複数のストーリーラインがひとつに収斂していき見事だが、ミステリーの結末としてはあまりに逸脱している。これは、ミステリーの外形をとえりあえず借りた、壊れまくった青春物語なのだろう。


 本作の中で何度か使われた「双眸」という語が、なぜか心に刻まれた。

 
 ああ、早いうちに佐藤友哉の主だった小説を全部読破したい。