恩田陸「夏の名残の薔薇」

夏の名残りの薔薇

夏の名残りの薔薇


第一変奏から第六変奏まで、6つの章からなる恩田流本格ミステリー。「一人称小説はすごく苦手です。三人称か、章ごとに一々語り手が替わるっていうのは書きやすいですね」と言う恩田らしく、本作も章ごとにすべて視点人物が替わっている。しかも、各章同じ時間同じ舞台同じ出来事を語っているはずなのに、そこで起こるエピソードは少しずつズレていて、不思議な当惑を呼び起こされる。遠目には同じに見える図形が、いざ重ね合わせてみると微妙に違う形をしていた、という感覚だ。


『夏の名残の薔薇』というタイトルは、ハインリヒ・W・エルンストというバイオリニストが作った曲からとったという。
 本文の合間には、アラン・ロブ=グリエ著『去年マリエンバートで/不滅の女』からの引用文がたびたび挿入される。その部分は難解だが、話のムードを高める効果がある。