「TITLE(タイトル)」2月号はミステリー特集


「TITLE(タイトル)」(文藝春秋)2006年2月号で、「完全無欠のミステリー!全280冊。」という特集が組まれている。
 東野圭吾伊坂幸太郎ジェフリー・ディーバーのインタビューがあったり、ミステリー好きの各界著名人が極上の3冊を選ぶ企画があったり、「清張を旅せよ。」なんていう清張作品の事件現場(北九州限定)を訪れる記事があったりと、多面的に読ませるミステリー特集だ。


 特集の冒頭に置かれた恩田陸の「成熟と回帰」というエッセイは、恩田ファンとして注目した。ミステリーの素晴らしさはあくまでも読者のための小説であるところ、というくだりに恩田の考えが端的に表れている。その考えを補強する事例として、学生に対する進路相談や就職カウンセラーをしている人の談話を紹介しているのがおもしろい。

「自己表現をしたい。自分に合った仕事をしたい」と思っている学生はいつまで経っても就職できないか、しょっちゅう転職をしている、と言っていた。いっぽう、「人の役に立ちたい。社会に貢献したい」と考えている学生は、仕事も決まるし社会に出てからの成長も早いというのである。

 そして恩田は、このエッセイのラストをこんな言葉で結んでいる。

巷に溢れる「作者の自己表現のため」の小説に振り回されるのはいい加減にやめて、お客に木戸銭の分の価値は約束する、プロの書いた面白いミステリを今こそゆっくり読もうじゃありませんか。

 私は、作者の自己表現のために書かれた作品に深い感動をおぼえることもあるので、そういう作品にもできるだけ接していきたいと思うが、やはり確実に「買ってバカを見ない」「読んで損をしない」小説は、読者への奉仕のために書かれたエンターテインメント作品に多い。読む速度が遅く、買える本も金銭的に限られている私は、おのずとエンターテインメントのほうを読む機会が増えるわけだ。