西尾維新「きみとぼくの壊れた世界」

きみとぼくの壊れた世界 (講談社ノベルス)

きみとぼくの壊れた世界 (講談社ノベルス)

 かわいくて頭がよくて内気な性格の妹・櫃内夜月と、その妹から精神的に離れられない兄・櫃内様刻が登場。妹のほうも兄にべったりで、兄がほかの女の子と親しくすると猛烈にやきもちを焼くし、兄に嫌われそうになると大パニックに陥り、兄に向かって「ごめんなさい」を異常なほど連発し取り乱すのだった。あげくのはてに、2人の関係は近親相姦的な領域へ進んでいく。男性読者からすれば、妹萌えの要素がとてつもなく満開の作品である。


 地の文は、僕(櫃内様刻)の一人称で、彼の考えや気分が饒舌に語られながら、物語が展開されていく。「僕」は、私立桜桃院学園の3年生で、妹は同じ学校の2年。作品の長さのわりにストーリーの展開は少ない。やはり、「僕」の内面的な饒舌(=戯れ言)が多くの分量をとっているのだ。この戯れ言を楽しめるかどうかが、本作を楽しめるか否かの分かれ目になりそう。
 とりあえず本格ミステリーの器を借りた作品なので、殺人事件も起こるし探偵役の人間も登場する。探偵役は、「僕」の友達で視線恐怖症的集団アレルギーのため保健室登校をしている女子高生・病院坂黒猫だ。彼女のキャラが本作で最も際立っている。理屈っぽくもってまわった喋り方といい、わからないことがあるというだけで自殺をはかろうという思考回路といい、彼女が保健室で行なっている反倫理的な仕事といい、独特のキャラを備えているのだ。病院坂黒猫のキャラを魅力に感じられるかどうかも、本作を楽しめるか否かのリトマス試験紙になりそうだ。


 本格ミステリーの形式を借りてはいるが、推理やトリックといった要素に力点を置いているわけではないため、そういう要素を期待して読むと肩透かしを食らうかもしれない。この作品は、「僕」の戯れ言と、病院坂の独特なキャラ、そして僕を中心とした兄妹関係・友人関係の壊れたありさまを楽しむものだろう。