岩原裕二「いばらの王」1〜6巻(完結)

いばらの王 (6) (ビームコミックス)

いばらの王 (6) (ビームコミックス)

 肉体が石化し死に至る、治療不可能な病気〝メドゥーサ〟。世界中のメドゥーサ患者のなかから160人が選ばれ、コールドスリープで長期の眠りについた。いつか医療が進歩し、メドゥーサの治療法が見つかることを期待して。
 患者らが眠りについた場所は、愛する息子をメドゥーサで亡くした富豪が所有していた、13世紀の城塞を改良した施設。だが、患者たちが目覚めたとき目の前に広がっていたのは、あまりにも異常な状況だった。城塞内では、巨大ないばらがあちこちを伝い、グロテスクで凶暴な怪物たちがはびこっていた。主人公の少女・カスミは、同じ境遇に置かれた仲間たちと城塞からの脱出をはかるが、仲間が1人また1人と死んでいき、どうあがいても脱出不可能な事態に絶望感を深めていく。しかし、命ある限り希望を捨てず、次から次へと襲いくるおぞましい危機をぎりぎりのところで乗り越えていくのだった。


 著者が語るとおり、本作にはハリウッドのB級パニックホラー映画のテイストがあふれている。『ジュラシック●●●』とか『エイリア●』とか『バイオ●●●』とか、あれやこれやの映画で観たことがあるようなカットにたびたび出会える。潔いまでにエンターテインメントに徹した作品だ。
 登場人物にこれでもかと襲いかかる危機、これからどうなっていくんだろうという次回へのヒキ、登場人物が置かれた状況の『ドラゴン・ヘッド』ばりの不明さと次第に明かされていく謎、主人公カスミの外面的なかわいらしさと内面の動き、城塞内の異様な光景など、数々の魅力にぐいぐい引っ張られるので、現実をひととき忘れ、興奮を抱きながら読みとおすことができる。


 後半は、いくつもの謎が明かされる展開だが、その謎の真相というのが、冷静に考えるとトンデモ度の高い荒唐無稽さに満ちている。しかし、ストーリーテイリングの妙や絵の説得力、キャラクターの魅力によって、最低限のもっともらしさを保ち続け、読者を興ざめさせないでくれる。著者が目指したB級っぷりが、うまい具合に作品の長所になっていると思う。長編活劇ストーリーマンガのわりに、あまりスクリーントーンを使っていないのも特徴か。