大塚英志「サブカルチャー反戦論」


 同時多発テロ以降の言論界では「反戦」を訴えにくい空気が漂っている。そんな翼賛化する状況を「戦時下」と捉えた大塚は、だからこそ書物という「公」の場で発言する必要性を感じた。あとがきに、ある意味でこれは「アジビラ」のような書物、と記しているのが印象的だ。


 本書に収録された「多重人格探偵サイコと突然の平和論」の初出誌は、アニメ雑誌ニュータイプ」2001年11月号。大塚が同誌に連載していた小説『多重人格探偵サイコ 試作品神話』第15話のなかで、いきなりこの評論が発表されたのである。編集部にこういうものを書くと事前に知らせず、これ以上入稿が遅れると雑誌の発売スケジュールが狂うぎりぎりのタイミングで入稿したという。そういうゲリラ的手法を使ってでも大塚は、アニメ雑誌の読者に「戦時下」における平和論を語りかけたかったのだろう。