原籙「愚か者死すべし」

愚か者死すべし

愚か者死すべし

 寡作の原籙の、じつに9年ぶりとなる長編作品。探偵・沢崎を語り手にした本格的ハードボイルドだ。『そして夜は甦る』『私が殺した少女』『さらば長き眠り』が沢崎シリーズ第一期長編とされ、本作は第二期長編の第一弾に位置づけられる。はたして、第二期二作めの上梓はいつのことになるのか…


 原の文体は、その作品世界へ引き込んでいく誘引力が強く、読み始めてすぐ読む者を虜にする。気取っているのに嫌味でなく、皮肉っぽいのにまっすぐ貫くものがあり、クールなのに熱が浮いていて、一文一文に極上の味わいがある。沢崎の、ニヒルでとっつきにくいけれど、ときとして恐怖心を隠さなかったり思いやりある行為をしたりする人間性も魅力だ。
 錯綜する人間関係とプロットが、沢崎の活躍で解きほぐされ、読者は驚きの真実へと導かれる。読んでいる最中の充実感が大きく、読み終えるのが惜しかった。