ハロウィンの日に読む手塚マンガ

 今日(10月31日)はハロウィンですね。
 そこで“ハロウィン”という名の幽霊が登場する『ふしぎ旅行記』を読み返しました。昭和25年、描き下ろし単行本(家村文翫堂)のかたちで世に出た初期作品です。
 
 一般の日本人が海外旅行するなんて夢物語だった時代に、手塚先生は中国、インド、エジプト、イタリア、フランス、アメリカといった国々をめぐる世界旅行のお話を描いたのです。
 この作品の冒頭が印象的です。映画の撮影所内がどうなっているかを図解した見開きの大ゴマが描かれ、それからすぐ試写室の場面に移ります。これから始まる『ふしぎ旅行記』の物語は“試写室で観る映画”という体裁なのです。読者は、本を開いてマンガを読み始めたつもりが、試写室で映画を観ているような感覚へ誘い込まれるわけです。
 そうして物語の本編が始まったと思ったら、すぐに「ええっ!?」と驚かされます。初期手塚マンガで頻繁に主人公格として活躍する重要キャラクターのケン一があっさり死んでしまうのです。主人公がこんな簡単に死んでしまうとは!?
 それでどうなるかと思ったら、ケン一は幽霊(たましい)となってこの物語に出演し続けるのでした。
 天国の帳簿を確認してみると、ケン一はまだ死ぬ予定ではなく、なにかの間違いで死んでしまったのだと判明します。なので彼には生き返る権利があるわけですが、すでに肉体を紛失しているため、代わりの肉体を探して、幽霊の先輩と一緒に世界を旅することになります。
 その幽霊の先輩が“ハロウィン”なのです。
 ハロウィンは、幽霊化したケン一の相棒として常に傍らに寄り添い、ケン一の世界旅行をサポートする役を担っています。