吾妻ひでお「失踪日記」

失踪日記

失踪日記

 失踪、ホームレス、肉体労働、アル中入院など、これでもかというほどヘビーな実体験を、著者持ち前のかわいらしい絵柄で飄々と物語っていて、最後まで暗くなることなく読めた。暗くならないといっても、私の脆い心にはちょっと重かったけれど。


 それにしても、これほど過酷で悲惨な実体験を、カラッとしたユーモアでくるみ、必要以上に深刻ぶることなく描けてしまう吾妻ひでおの資質には驚嘆する。自分の特殊体験をここまで飄然と相対化できるなんて、この作品はSFではないけれど、意識のありようは筋金入りのSF者そのものだ。あるいは、身を削り心をすり減らしながらも、けろりとした顔で他人を楽しませる天性の道化師か。


「街の12」から「14」にかけては、非失踪時、つまりマンガ家・吾妻ひでおとしての自伝になっている。このあたりは、吾妻ひでお作品のファンや、マンガファンとって興味をそそるエピソードが満載だ。