島田荘司「21世紀本格」

21世紀本格―書下ろしアンソロジー (カッパ・ノベルス)

21世紀本格―書下ろしアンソロジー (カッパ・ノベルス)


本書は、島田荘司の執筆依頼状に応じた7人の作家と、島田当人の、合計8人による中編ミステリーを収録している。島田は、21世紀の本格ミステリーが進む指標となるような、新しい方法論や旧来の作品を先鋭化した要素を内蔵する本格ミステリーを書いてほしい、と依頼。島田が信じる本格ミステリーの条件とは、〝高度な論理性を内包する小説〟という一点のみで、そこに詩にも置き換えられるような神秘現象が現れていればより見事だという。そして、新しい本格ミステリーには最新科学の知識も必要だと訴える。
 そうした条件にかなった作品が本書に寄せられたわけである。


 収録作は以下のとおり。
『神の手』響堂新
『へルター・スケルター』島田荘司
『メンツェルのチェスプレイヤー』瀬名秀明
百匹めの猿柄刀一
AUジョー』氷川透
『原子を裁く核酸』松尾詩朗
『交換殺人』麻耶雄嵩
トロイの木馬森博嗣


 私がとくに愛読する作家の1人である瀬名秀明の『メンツェルのチェスプレイヤー』は、今年単行本化された長編小説『デカルトの密室』を続編にもつ作品だ。ロボットの知性と身体性の問題を軸に、進化心理学の考えを取り込んで科学的かつ哲学的に思考を編み上げていく本格ミステリーで、最後までよい緊張感を保ちながらおもしろく読めた。
 ロボットが人間的な知性をもつとはどういうことか? 本作に登場する児島教授は、そのために必要なのは〝自由意志〟だという。そして教授は、真に自由なロボットを完成させる。しかし教授の教え子であるレナは、そうした教授の持論に懐疑的だった。

 
 レナとロボットによるチェスのシーンが多くを占めるが、チェスそのものが孕む知的なゲーム性にスリリングな感覚をおぼえつつ、そのゲーム中になされる両者の対話もまた知的刺激に満ちた勝負のようで脳内に興奮を呼び起こされた。


 本作を読む前に、エドガー・アラン・ポオの『モルグ街の殺人』を読んでおいたほうがいいだろう。