西島大介「凹村戦争」

凹村戦争(おうそんせんそう) (Jコレクション)

凹村戦争(おうそんせんそう) (Jコレクション)

既成のマンガ雑誌の枠外で活躍する特異なマンガ家・西島大介の初の単行本。描きおろしSF長編だ。
 本作には過去のSF作品から数々のネタが仕込まれていて、SFファンは元ネタ探しをするだけでも楽しめそう。2人のウェルズ、すなわちH・G・ウェルズオーソン・ウェルズに捧げられた作品なので、この2人についてよく知っておくと、さらに深く堪能できるのではないか。


 四方を高い山に囲まれ、ぽっかりと凹んだ場所にある凹村(おうそん)は、新聞が半月遅れで届き、テレビはNHKしか映らないような閉ざされた村であった。そこに住む中学3年の凹沢が主人公。他の住人も、凹伴とか凹坂とか〝凹〟の字の付く人ばかり。
 いつからか、凹村上空を謎の飛行物体が昼夜問わず横切っていくようになった。何か只ならぬことが起こっている気配。しかしそれは所詮、凹村の外側で起こっているよそ事だった。
 ある日、謎の飛行物体の一つが凹村に落下。それは金属らしきX型の人工物だった。成績が悪くて村内唯一の凹高への進学が危うくなっていた凹沢は、この平和な村がどうにかなっちゃえばいいのに、とそのX型の物体に願ったのだった。
 本作はそんな始まり方をする。私好みである。いったいこれから何が起こるのだろう、という期待感が高まる。その、これから起こりうる何かと、凹沢の内面がどのような関係性で描かれていくかも気になってくる。


 かわいくてポップな絵柄で、ずいぶんハードなシチュエーションを描いている。本来なら深刻に考え込んだり大騒ぎしたりするようなハードな出来事が現前しているのに、登場人物たちは皆、飄々とした風情を漂わせている。おかげで作品全体があっけらかんとした雰囲気だ。そんな表層の雰囲気に対して、読者である私は、世界が終局へ向かっているような不安を漠然と感じながら物語を読み進めねばならなかった。ポップだけど、なんだか救いがなく、救いがないのに未来が開かれていくような、不思議な読後感のある物語だ。