歌野晶午「葉桜の季節に君を想うということ」

葉桜の季節に君を想うということ (本格ミステリ・マスターズ)

葉桜の季節に君を想うということ (本格ミステリ・マスターズ)

 タイトルだけを見れば、センチメンタルな恋愛小説のようだが、作者が歌野晶午で、本書が文藝春秋本格ミステリ・マスターズ」の一冊とくれば、ストレートな恋愛小説であるわけがない。
 この作品は恋愛小説の要素を孕みながらも、主眼に据えられているのは驚天動地のトリックであり、すべてのエピソードはそのトリックのための周到な仕掛け・伏線になっている。タイトルの意味も、最後の最後の明かされる。
 

 主人公・成瀬将虎の軽妙な語り口ですらすら読んでいけるため、作品世界に没入しやすい。そのぶん、トリックが明かされたときの驚きは巨大なものになる。
 成瀬将虎が探偵役となって悪徳商法会社・蓬莱倶楽部の犯罪を暴くエピソードを軸に、彼が若かりし頃やくざ世界で体験した事件や、彼の友人の娘を探す話なども挿入される。
 友人の娘を探すパートで成瀬は名古屋まで足を運ぶため、名古屋市やその近辺の現実に存在する地名がいくつも出てくる。名古屋の近隣に住む私は、そういったところに親しみを感じた。


 本作は、宝島社「このミステリーがすごい!」の〝国内ベスト10 in 2003〟で1位を獲得している。「このミス」といえば、本年度の版が発売されたらしい。どんな作品がランクインしているか楽しみだ。