東野圭吾「予知夢」

予知夢 (文春文庫)

予知夢 (文春文庫)


本書は、『探偵ガリレオ』(1998年文藝春秋より刊行、のちに文庫化)の続編にあたる連作短編シリーズだ。刑事の草薙が、大学時代の友人で帝都大理工学部助教授の物理学者・湯川とともにオカルトめいた事件の謎を解き明かしていく本格ミステリー。毎回このコンビが、あたかも超常現象であるかのような不思議な事件を「科学的」に解明していくのがキモだ。
 本書では、予知夢、幽霊、ドッペンゲルガーなどの超常現象が扱われている。


 殺人事件と絡んで生じた超常現象の謎が、科学的知識と思考によって合理的に種明かしされていく過程が魅力だ。
 草薙刑事が不可思議な難事件に手を焼き、湯川の研究室を訪ねるお決まりのパターンも、連作短編を読んでいるんだという感覚を味わえて楽しい。草薙刑事が研究室に入ったとき、湯川は素人には意味不明な実験をやっていて、その実験の意味が湯川の解説によって明らかになる瞬間も、ちょっとした謎解きのおもしろさがある。
 湯川が、クールな素振りで草薙刑事をからかうところはチャーミング。


 年末の国内ミステリー関連のベスト10で、いくつもペストワンを獲得した『容疑者Xの献身』は、湯川の長編初登場作だ。その辺のことについて著者の東野はこんなことを言っている。

探偵ガリレオ』にしても『予知夢』にしても、それまでの短編というのは結局、謎を解いているだけの小説なんです。いわば湯川が、単に物語を終わらせるためだけの道具になってしまっている。これに自分のなかで物足りなさを感じていて、なんとかキャラクターとして血を通わせたいと考え、そのために長編を書こうと考えたんです。
(「このミステリーがすごい2006年版」2005年12月・宝島社発行)


 湯川は短編連作でも十分にキャラが立っていたと思うが、長編ではさらに立体的にその人物像が描かれているのだろう。傑作の呼び声高い『容疑者Xの献身』、未読なので、早く読みたいところだ。