東野圭吾「容疑者Xの献身」

容疑者Xの献身

容疑者Xの献身


昨年末のミステリーベスト10企画で次々と1位を獲得した『容疑者Xの献身』をようやく読みはじめたところで、17日夜、東野圭吾が本作で第134回直木賞を受賞したとの報が舞い込んだ。東野は6回めの候補で受賞になったという。
 人気、実力、実績ともに申し分のない東野が、このまま候補にあがるだけで受賞できなかったらもったいないし、仮に受賞できたとしても東野の代表作とはいえないような作品で受賞させるのは避けてほしい、などと思っていたが、本作『容疑者Xの献身』での受賞とあれば納得が行く。直木賞ではトリックを主軸にしたミステリーは受賞しにくい傾向にあるようで、『容疑者Xの献身』が受賞したは異例のことみたいだけれど。


 本作を読了してみて、これは数々のミステリーベスト10企画で1位を獲るにふさわしい優れた作品だと実感した。結末で意外な謎が明かされるミステリーとしても、深く純粋な愛を描いた恋愛小説としても、十分に満足させてくれるものだった。連作短編『探偵ガリレオ』『予知夢』で活躍した物理学者・湯浅と刑事・草薙の長編初登場作品というのも嬉しいし、天才物理学者VS天才数学者という構図で対決ものの醍醐味も味わわせてくれる。
 結末部分でトリックが明かされて大いに驚いたが、そのうえ犯人の動機などで心打たれるところもあって涙がこぼれてきた。ミステリーの結末で驚かされることはよくあるが、今回のように泣かされたのは久しぶりだ。ラストの一行が心に深い余韻を残す。


 
 このたび第134回芥川賞を『沖で待つ』で受賞した絲山秋子の作品はまったく読んだことがないが、以前からいつか読んでみたいと思っていた。これを機会に手を出してみるか。