廣野由美子「批評理論入門―『フランケンシュタイン』解剖講義」
批評理論入門―『フランケンシュタイン』解剖講義 (中公新書)
- 作者: 廣野由美子
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2005/03/01
- メディア: 新書
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本書は、「小説技法篇」と「批評理論篇」からなる文芸理論入門だ。「小説技法篇」は、「焦点化」「提示と叙述」「イメジャリー」「異化」「メタフィクション」など15項目に、「批評理論篇」は、「脱構築批評」「精神分析批評」「フェミニズム批評」「マルクス主義批評」など13項目に分けられている。
本書では、各項目に掲げた諸々の小説技法や批評理論を説明するさい、その具体例として実際の小説作品を提示しているのだが、その作品をメアリ・シェリーの『フランケンシュタイン』ただ1作に絞っている。そうすることで本書は、項目別文芸理論入門書の器に入った『フランケンシュタイン』論の意味合いを帯びてくるのである。したがって、本書を読む前に小説『フランケンシュタイン』をひととおり読んでおくと、本書に書いてあることがより深く正確に理解できる。
『フランケンシュタイン』はこれまでに50回近く映画化されている著名な作品だが、その原作であるメアリ・シェリーの小説はあまり読まれていない。我々がフランケンシュタインと言ってまず思い出すのは、1931年公開の映画で怪奇名優ボリス・カーロフが扮した巨人怪物の姿だろう。傷だらけの顔で首からボルトが飛びだし、ぎこちない動作で「アーウー」としか喋らない、あの怪物である。
これがメアリ・シェリーの原作小説になると、怪物の姿は、人間の目で見るに堪えないほど醜く、それを見た者は気を失ったり超人的なスピードで逃げだしたりする、と書かれている。見た人が気を失ったり超人的なスピードで逃げだしたりするほど醜悪な怪物の姿は、映画のような視覚メディアでは十全に描ききれない。この怪物の本来の醜さは、読者の想像力を無限に刺激できる〝言語〟によってしか表現しえぬものなのかもしれない。
(注:フランケンシュタインとは、正しくは、その怪物を作りだした科学者の名であって、怪物そのものを指す語ではない)