島田荘司「本格ミステリー宣言」

本格ミステリー宣言 (講談社文庫)

本格ミステリー宣言 (講談社文庫)

 ミステリー作家・島田荘司本格ミステリーへの愛情とこだわりが詰まった一冊。ミステリーというジャンルには、社会派もあれば、ハードボイルドもあるし、サスペンスや冒険小説もある。島田は、そのようにミステリーには様々なスタイルがあってよいとしながら、推理小説である以上、「本格」を志向する発想が必ず根底になくてはならないと訴える。「本格」の発想という根本があるからこそ、ミステリーというジャンルは多様なスタイルに分化し互いに凌ぎを削り合うことができるというのだ。
 では、その「本格ミステリー」とは何か? 島田は、本書のために書きおろした「本格ミステリー論」で、「本格」の真理に迫る。「本格」という語の意味から、ミステリーの歴史・現状を視野に入れ、島田なりの「本格」論を構築している。


 島田が推薦文を書いてデビューさせた、我孫子武丸綾辻行人歌野晶午法月綸太郎は、「新本格」と名づけられたムーブメントの中心的な作家たちだ。彼ら4人と島田の座談会も本書に収録されている。大筋では同じ志向性をもった5人だろうが、それぞれが語る本格ミステリー観に微妙なズレがあって興味深い。私自身、ガチガチの本格ミステリーが特に好きというわけではないが、ミステリー全般を愛読する者として、「本格」物こそがジャンルの中枢であり続けてほしいと願う。