浦賀和宏「松浦純菜の静かな世界」

松浦純菜の静かな世界 (講談社ノベルス)

松浦純菜の静かな世界 (講談社ノベルス)


 デビュー作『記憶の果て』以来、浦賀和宏講談社ノベルスで発表してきた〝安藤直樹シリーズ〟とは別に新たに始まった〝松浦純菜シリーズ〟の第1弾。


 手に大ケガを負ってどこか違う土地へ引越し療養生活を送っていた松浦純菜が2年ぶりに自宅へ戻ってきた。そのころ市内では、女子高生が被害者となる連続殺人事件が起こっていた。
 別の事件で奇跡的に一命をとりとめた八木剛士は、性格が暗く、何かと自己嫌悪にさいなまれやすい高校生。その剛士に、純菜は強い関心を示し、積極的に彼と友達になろうとする。純菜が剛士に近づいた理由は、新聞報道された大きな事件の被害者である彼への好奇心からか、それとも別の事情があるのか…? 物語は、女子高生連続殺人事件の謎を追いながら、松浦純菜の心と体の謎に迫っていく。


 事件の謎を解く本格ミステリーとしては並の展開だが、松浦純菜の少し神秘的なたたずまいと、八木剛士の内向的な心理がよく描けていて、最後まで読ませる。とくに、剛士の卑屈で鬱屈した心理描写は実感があふれていて真実味がある。思えば、浦賀は、デビュー作の『記憶の果て』から、内向的な青少年の苦悩や憤懣ややりきれなさを描くのが得意だった。浦賀作品のこの要素に惹かれて愛読し続けている人も多いのではないか。

 
 松浦純菜シリーズ第2弾の『火事と密室と、雨男のものがたり』は未読だが、それを除けば、私は浦賀の単行本作品はすべて読んでいる。個人的には、デビュー作から始まった初期の3作ほどが最も好みだ。