貫井徳郎「慟哭」「修羅の終わり」


慟哭 (創元推理文庫)

慟哭 (創元推理文庫)

修羅の終わり (講談社文庫)

修羅の終わり (講談社文庫)

 ちょっと前のことになるが、貫井徳郎の『慟哭』と『修羅の終わり』を読んだ。この両作は、本格ミステリーでありながら、本格ミステリーらしからぬ重厚かつ写実的な文体で物語が綴られていく。まるでリアリズムを基調とした社会派サスペンスの趣きだが、最後まで作品を読み進めれば驚愕の本格ミステリー的仕掛けが待ち受けていて、「ああ、やっぱりこれは本格ミステリーに属する作品なのだ」と納得させられる。


 社会の実像を抉るリアリズムこそが、貫井作品全体をつらぬく基本的な作風かと思って、上記2作に続いて、『プリズム』『迷宮遡行』『神のふたつの貌』といった作品を読み進めていくと、もっと軽妙な文体の作品もあったりと様々で、貫井氏が1作ごとに作風を変えていく作家だと気づかされる。


 昨年だったか、私は、Eメールで貫井氏に〝ファンレター〟らしきものを送ったことがあるのだが、貫井氏から「私はいろいろな作風に挑戦をする小説家です。次はどんな話なのかと楽しみにしていただけたら大変嬉しいです。これからもどんどん新たな領域を拓いていくつもりです」との返事をいただいた。貫井作品における1作ごとの作風の変化は、極めて意識的なものであったようだ。