高村薫「レディ・ジョーカー」上・下巻

レディ・ジョーカー〈上〉

レディ・ジョーカー〈上〉

レディ・ジョーカー〈下〉

レディ・ジョーカー〈下〉


 本作は再読だが、初めて読んだときはなぜか途中で飽きて適当に読み流してしまったので、まともに読むのは今回は初めてのようなものだ。前回どうして飽きてしまったのか不思議なほど、最後の最後まで夢中になって読破することができた。
 競馬場で出会った、一見バラバラな生き方をしている人間たちが企てた大企業恐喝事件を詳細に描写した作品で、高村の硬質な文体によって、個人の闇、企業の闇、社会の闇が丹念に炙り出されていく。犯人、警察、企業、マスコミ、それぞれの視点から物語が語られていき、それらの人間たちが織り成す濃密なドラマに圧倒される。高村の小説はどれもそうだが、全体的に男くさい作品でもある。(いうまでもなく高村は女性である)


 そしてまた本作は、同じ著者の『マークスの山』『照柿』に続く、合田雄一郎警部補を主人公とした3部作?のラストの作品にあたる。
 私は『マークスの山』で高村作品に魅惑された。これは、警察ミステリーの傑作で、警察の内部事情をよく取材しているし、トリックや謎解きがあるわけではないのに、最後までワクワクしながら読み通すことができた。
『照柿』は、『マークスの山』のようなワクワク感というかエンターテインメント性を期待して読むと見事に裏切られる。部品工場の内部の描写が暑苦しいほどに執拗で、そこがいちばん印象に残った。ミステリーとか娯楽小説というより、純文学の趣がある。