「カフカ短篇集」

カフカ短篇集 (岩波文庫)

カフカ短篇集 (岩波文庫)

 カフカが1912年から1920年のあいだに執筆した短い小説20篇を収めている。1ページほどの小品から50ページあまりのものまで、さまざまな長さの作品を読むことができる。
 カフカの『変身』は、私が読んだ海外文学で最も好きなもののひとつ。この短篇集も、カフカ的な不条理さと残酷さがみちあふれていて悪くない。意味や文脈がとらえにくい難解な部分も多々あるが、そういう不可解さも含めてカフカ・ワールドに心地よく眩惑された。
 日常が一転して不思議な世界に入り込んだり、事実を語っていたはずの叙述が途端に不確かな言葉へとなだれ込んだり、その〝転じる瞬間〟に一種異様な快感と不気味さをおぼえる。




 収録20作品に、一言ずつコメントしていこう。


「掟の門」
最後の門番のセリフで、どんでん返しの衝撃。


「判決」
主人公に判決を下すのは父。その残酷な判決の末路は…


「田舎医者」
医者の被害妄想?


「雑種」
変な動物の変な話。


流刑地にて」
奇妙な処刑用の機械。その処刑法に固執する人物の、固執するがゆえの異常な行動。


「父の気ががり」
意味不明の生き物… 「肺のない人のような笑い」ってどんなだろう?


「狩人グラフス」
狩人グラフスは、死んだ身ながら生きてもいる?


「火夫」
16歳のカールは、ニューヨーク行きの船で出会った火夫に魅了される。上司に不当な扱いを受けていると訴える火夫の味方を買って出たカールだが…


「夢」
死の予感漂う夢。


「バケツの騎士」
石炭屋へ向かうのにバケツにまたがる主人公は変。


「夜に」
たった1ページの作品。


「中年ひとり者のブルームフェルト」
ブルームフェルトはなぜか2個のボールにストーキングをされる。


「こま」
哲学者の、一見無意味でばかばかしい行為が、世界を認識する方法だった!?


「橋」
擬人化した橋が語る不気味な話。


「町の紋章」
バベルの塔の建造が滞る理由が、ナンセンスでユーモラス。


「禿鷹」
禿鷹に襲われる私がなぜ安堵したのか? 


「人魚の沈黙」
人魚は、歌声以上に強力な武器を持っていた…


「プロメテウス」
忘却と飽和の果てに不可解が残る。


「喩えについて」
喩えにまつわる禅問答か。


万里の長城
万里の長城を建造するさい、なぜ工区分割方式が採用されたのかという話から、中国の君主制をめぐる論及へと至る。