「知の技法」
- 作者: 小林康夫,船曳建夫
- 出版社/メーカー: 東京大学出版会
- 発売日: 1994/04/08
- メディア: 単行本
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出版当時かなり話題なった本書は、東京大学教養学部の「基礎演習」という科目のサブテキストとして編まれたものだ。タイトルが示すとおり、知の技術の方法を習得するための本であるが、古典的なスタンダードを標榜するものではなく、知の更新・進歩を考慮に入れ、数年後には賞味期限が切れることを意識して執筆されている。
出版から10年以上がすぎた今、実際に古くなった面もあるだろうが、大学や研究機関にいるのではない私のような人間からすれば、文系の学問における知の技法を概観するのに今なお便利な一冊だ。
本書の執筆陣のひとり松浦寿輝は、知の対象に制限はないとして『SEX by MADONNA』という写真集を対象に挙げ、それに対しどのような知的対応がとれるかを論述している。
対象の写真集は、歌手マドンナの裸体かそれに近い写真ばかりで埋め尽くされていて、それに対し「きれい」とか「いやらしい」といった感想にとどまってしまっては、知の世界へ入ることはできない。何らかの「分析」「考察」「認識」が可能となりはせぬかと問いを立ててみるべきなのだ。
松浦が、この写真集を知の対象として学問的に解読あるいは触知していく過程は、なかなかスリリングである。
本書が話題になった当時は、いろいろと批判の声もあった。知のマニュアル化、知のファッション化を嘆き、憂慮する意見が多々あったように思う。知が、通り一遍のマニュアルや小手先の技術だけでどうにかなるものでないことは確かだが、その知が天才的な神業に依るものでない限り、それを行なう人全般に通ずる基本的な技法というものがあるはずで、そういう技法を知らないよりは知っているほうが圧倒的にましなわけである。野球の技術書を読んだだけでは野球はうまくならないし、マンガの描き方指南書を読んだだけですぐさまマンガが描けるわけではないのと同様、本書を読んだだけで知的行為が楽々と可能になるわけではないが、知の技法を一般に開こうという本書の志は低くはないと思う。
このシリーズは、「知の論理」「知のモラル」「新・知の技法」と続く。