G・オーウェル「動物農場」

動物農場 (角川文庫)

動物農場 (角川文庫)

 スターリン体制下のソ連を風刺した寓話。人間が経営する荘園農場で飼育され搾取されていた動物たちが、長老の豚による演説で革命の意識に目覚め、人間に反乱を起こすところから物語は始まる。この長老豚は、レーニンを思わせる動物キャラクターだ。この世界では(人間を除けば)豚が最も優れた知力を有しており、レーニンのほか、スターリントロツキーとおぼしきキャラクターが豚となって登場する。(作品内での名前は、レーニン→メージャー爺さん スターリン→ナポレオン トロツキー→スノーボール)
 ソ連がとっくに崩壊し、共産主義に幻想を抱く者が減った現在、この寓話が風刺する内容は無効化したのだろうか。本作を執筆するにあたって作者のオーウェルの念頭にはソ連のイメージしかなかったようであるが、これは、現在の世界にも残る独裁国家・管理国家のありさまにあてはめても読めるだろうし、アメリカや日本など民主主義・自由主義国家が先鋭化して行き着く一つの方向を暗示しているものと受けとめることも可能だろう。あるいは、そういった現実の社会・国家への風刺という視点ではなく、豚やら馬やら牛やら鶏やら動物キャラがいっぱい登場するおとぎ話として楽しむこともできそうだ。一匹いっぴきのキャラが類型化された分かりやすい性格をしていて、そんなキャラたちが、理念に燃えた革命から動物主義体制を樹立して以後たどっていく道筋は、じわじわと確実にある方向へ傾斜していく。その過程と末路を、さまざまな感情を抱きつつ堪能することができるのだ。
 私が、いい味を醸していて好感度の高いキャラクターと感じたのは、雄馬のボクサーだ。知力は高くないが、愚直で力持ちで働き者で、権力の側がこすっからい奴らばかりなので、なおさらボクサーの人の好さが際立った。しかし、その〝人が好い〟という美徳も、権力の側から見れば、実に利用しやすく便利な存在でしかなくなってしまうのであって、それが悲しい。



 本作を読んだあとは、同じ作者の『1984年』を読むといい。『1984年』は、『動物農場』とテーマの連なるアンチ・ユートピア小説だ。『動物農場』はロシア革命からスターリン独裁政権下のソ連を寓話の形式で風刺したものだが、『1984年』はその後のソ連共産主義体制を痛烈に批判している。