筒井康隆「エンガッツィオ司令塔」

エンガッツィオ司令塔

エンガッツィオ司令塔

 筒井康隆の小説は軒並み面白い。エッセイも好きだ。これ読みたいなあ、と思って筒井の本を買っているうちに、100冊近く集まってしまった。


 この『エンガッツィオ司令塔』は、表題作を含めた短編集で、筒井がマスコミの用語自主規制に対する抗議として行なった「断筆」を解除したのちに発表した作品を集めている。執筆時期でいえば、断筆中に書いたものも含まれる。
 ブラックユーモアを得意とする筒井の作品には毒が満ちているものが多いが、本書の表題作であり、冒頭に収録された『エンガッツィオ司令塔』からして、筒井持ち前の毒が大いに炸裂している。新薬開発のための人体実験のアルバイトをいくつも掛け持ちしておかしくなった主人公が、お下劣な変態的行為に至る話である。筒井ファンの私ではあるが、スカトロをネタにしたこの作品を数年前初めて読んだときは、さすがに引いてしまった。いま読んでも、ついていけない。こんなの、活字だからまだ読めるが、映像だったらまずアウトだ。ただ、筒井の文体そのものが趣味にあっているので、どんなにつていけない内容でも、とりあえず読み通すことに苦は感じない。


 2番めに収録された『乖離』は、見た目が美しく清楚なのに喋りがすさまじい女性の話。その女性は、声も言葉づかいも悪く、横山やすしが悪声になって下品化したような話し方をする。痛快といえば痛快だが、差別用語や罵倒語がいっぱい混じったその喋りはあまりに毒々しくて刺激が強い。


 次の『猫が来るものか』は、ドラッグを主題としたドタバタ恐怖劇で、筒井作品によく見られる、おぞましいものに追われる描写がユーモラスであり恐ろしくもある。



 この3編のほか、7編の作品を収録している。巻末には、「断筆解禁宣言」というインタビューを掲載。断筆宣言からその解除に至るまでの真意を作者が語っている。