鳥獣戯画展


 京都国立博物館で「国宝 鳥獣戯画高山寺」が開催中です(10月7日〜11月24日)。修復を終えた鳥獣戯画全巻(甲・乙・丙・丁の四巻)が初めて揃う機会だとか。
 
 
 
 
 
 

 同展の目玉は、なんといっても鳥獣戯画の甲巻です。擬人化した兎や蛙、猿などが戯れる絵で有名ですね。私もこれが目当てで足を運んだのでした。
 マンガ史の本などを開くと“マンガの原点”としてこの鳥獣戯画甲巻がよく紹介されています。厳密に言えば鳥獣戯画が日本の現代マンガの原点かどうかについては専門家のあいだで異論もあるようですが、少なくとも私がこんなにも鳥獣戯画に親しみを感じるのは、自分がマンガ好きでマンガ史を語る文脈でこの作品がよく出てきたからです。



 甲巻の人気はダントツで、2時間待ってようやく展示を観ることができました。待ったぶん、甲巻の前にたどり着いたときの喜びはひとしおでした。立ち止まってはいけなかったのでゆっくりと眺めることはできませんでしたが、これが本物の鳥獣戯画なんだ!と感動を胸に鑑賞しました。



 本物の鳥獣戯画に触れて思い出したのが、1982年11月21日NHK教育で放送された「日曜美術館 私と鳥獣戯画」で手塚治虫先生が鳥獣戯画について熱く語っておられた姿です。
 この番組で手塚先生は、鳥獣戯画には「アイデアの面白さと絵の面白さがある」とおっしゃっていました。アイデアの面白さについては、蛙が兎を倒そうと耳を噛むところや、お釈迦様の格好で座る蛙の光背が葉っぱである点などを具体例として挙げておいででした。
 兎を倒した蛙が口から煙のようなものを吐いており、それが今のマンガのフキダシにあたるものだ、というお話も。



 絵の面白さについては、「線がなよやかで、一本の線でさっと描いている勢いのよさ」「一気に描き上げた感じで、線にためらいがないこと」といった点を指摘されました。自分で絵を描くときでもパッパと殴り書きのように描いたほうが線が美しく生きている場合が多い、と述べた手塚先生は、人前で絵を描いてみせるときの手の動かし方や速さ、力強さが鳥獣戯画の線にあらわれており、その点から、鳥獣戯画の作者も身近な人が見ている前で描いたのではないか、と推測しています。教養豊かだけれど庶民の気持ちや流行のギャグなども理解する、あったかい人物だったのではないか、とも。



 鳥獣戯画は海外に出しても今の日本のマンガとして通用するもの、ということも強調されていました。メビウスが来日したさい鳥獣戯画の一部を見せたら「これは今生きてる人の描いたものか?」と訊かれたとか。「ディズニーにも負けないという話もある」ともおっしゃっていて、手塚先生の鳥獣戯画に対する評価の高さと熱烈な思いが伝わってきます。