福田繁雄と手塚治虫


 1月10日から3月22日まで名古屋市美術館で「だまし絵2」が開催中です。
 
 
 
 展示作品は絵画などの2次元作品にとどまらず立体作品もいろいろとあって、だまし絵の世界を多角的に楽しめました。
 そんな数々の展示作品の中に、福田繁雄さんの『アンダーグランド・ピアノ』がありました。意味をなさない不定形の構造物が置かれています。それが鏡に映ると、きちんとしたピアノの形になるのです。現物は何が何だかわからないものなのに、鏡に映った像ははっきりピアノに見える、という不思議な作品でした。
 福田繁雄さんの娘さんである福田美蘭さんの絵画作品も展示されていました。『婦人像』という作品は、女性の上半身が描かれています。一見すると何の変哲もない肖像画ですが、よく観ていると女性の目が動きます。
 美蘭さんの作品では、『Copyright原画』という5枚組の作品もありました。●ィズ●ーのアニメ映画に出てくる有名なキャラクターの姿が背景や効果によって隠れてしまっている絵ですが、これは、もしキャラクターの姿を隠さず描いてしまったら公表が難しくなるという著作権の問題を表現しているとか。


 福田繁雄さんといえば、手塚治虫先生は「福田繁雄展図録」(1987年発行)に「福田イズムは唯一無二」という文章を寄せておられます。書き出しは「おととし広島で催された国際アニメーションフェスティバルで、ぼくは幸運にも受賞してトロフィーをいただいた。そのトロフィーは福田繁雄さんのデザインによるものである」。
 手塚先生は1985年、『おんぼろフィルム』で第1回広島国際アニメーションフェスティバルグランプリを受賞されました。そのさい贈られたトロフィーが福田繁雄さんのデザインだったのです。一方から見ると女性、それを回すと男性の形になるデザインだとか。手塚先生はこのデザインについて「福田さんの得意のメタルフォーシス(変形)である。アニメーションの本質はメタルフォーシス・アートだから、このトロフィーはまさにうってつけのデザインといわねばなるまい。」と評しています。
 手塚先生のこの文章はそこからだまし絵の話題に入っていき、「近年ではなんといってもエッシャーにとどめをさす」「エッシャー展や福田繁雄展が常に盛況なのを見ると、この種のアートを熱望する大衆がいかに多いかがわかるし、高度な知的ゲームを楽しむといった雰囲気で他のモダンアートの会場とはひと味違う」と続きます。「だまし絵2」には、福田繁雄さんの作品もありましたし、エッシャーの作品も展示されていました。手塚先生のおっしゃること、とても共感できます。私はアートを鑑賞する素養はこれといってないのですが、だまし絵に関しては「知的ゲームを楽しむ」ような感覚で観ることができます。芸術鑑賞である以上に頭の体操的なエンターテインメントとして楽しめるのです。

(「福田イズムは唯一無二」は手塚治虫漫画全集397巻『手塚治虫エッセイ集7』(講談社、1997年)に収録されています)