終戦と『紙の砦』


 本日は8月15日。終戦の日です。
 手塚治虫先生の戦時下の体験をベースに描かれた短編マンガ『紙の砦』は、まさに8月15日、終戦を迎えるところで話が結ばれます。
 
 その最終ページ。戦争が終わったことを自分の肌感覚で実感した大寒鉄郎(手塚先生の分身的主人公)が、大きくバンザイをして高らかに喜びを表します。いつ命を失うか知れない戦争を生きのびられた感銘、自分を抑圧していた状況からの解放感、これからはマンガを遠慮なく描けるという希望。そんな“明”の感情がぞんぶんにあふれています。


 が、この最終ページはそれだけにとどまりません。大寒のガールフレンドの痛々しい姿も描写され、そのわずかな描写が戦争の爪痕の深さを象徴しているように感じられるのです。
 終戦を迎えて生じた高らかな喜び、大きな希望…。そうした明るい感情に挿し込むように、戦後もなお残り続けるであろう戦争による爪痕を象徴的に描くことで、『紙の砦』の最終1ページはぐんと陰影を帯び、戦争の本性を匂わすように私の胸に届くのです。


 『紙の砦』といえば(すでに当ブログで書きましたが・笑)先日、高校日本史や小学校の道徳・国語の教科書を調べたときのことを思い出します。教科書に「手塚治虫」の名がよく出てくるのですが、そこで紹介される作品は『鉄腕アトム』が圧倒的に多く、それ以外だと『ジャングル大帝』『火の鳥』『リボンの騎士』といった有名作の図版がちらりと載っていたりする感じでした。そんななか、短編作品である『紙の砦』を紹介する教科書が2種類あったのが、ちょっと印象的でした。
 私が調べた限りにおいて『紙の砦』を紹介した教科書は、第一学習社の『日本史A』(高校)と、東京書籍の『新編新しい国語[5年]』(小学校)です。とくに後者は、『紙の砦』の図版を3ページ分(計11コマ)載せていました。『紙の砦』は(もとより手塚短編のなかでは知られているほうですが)教科書に好かれやすい作品なのだなと感じました(^^)


 と書いたところで思い出したのですが、『紙の砦』は教科書ばかりかセンター試験にも登場したことがありましたね。2014年1月に実施されたセンター試験日本史Bの第6問が「手塚治虫とその時代」と題されており、そこで『紙の砦』から4コマ分が転載されていたのです。「手塚治虫とその時代」という大問のなかに8つの設問があり、配点は23点だったそうです。