『夜の声』ドラマ化


 10月14日(土)の夜、『世にも奇妙な物語 秋の特別編』内の一編として、手塚先生の短編『夜の声』がドラマ化されました。
 『夜の声』の原作マンガは、空気の底シリーズの一作として「プレイコミック」1968年10月25日号で発表されました。


 今回のドラマでは、主人公の我掘英一を藤原竜也さんが、ユリを飯豊まりえさんが好演。ストーリーラインはおおむね原作どおりで、手塚先生の短編マンガのアイデアと構成の魅力をTVドラマという別媒体で新鮮に味わうことができました。


 我掘は、原作では我堀商事の青年社長でしたが、ドラマでは“大手IT企業のCEO”と現代風に変更されました。原作からの変更という意味では、ホームレスに扮した我堀と並んで乞食をしていたもう一人のホームレスに、原作よりはるかに重要な役割が付与されました。このもう一人のホームレス、原作では初めのほうにちょこっと登場しただけでストーリーにはあまり関係のない名もなき存在でしたが、ドラマになると“ケンちゃん”という名前が与えられ、狂言回し的な役割でストーリーに絡んだのです。小市慢太郎さんが演じました。


 ユリは我掘の会社に就職して社長秘書になりますが、ドラマには、ユリが秘書になる前から秘書の仕事をしているもう一人の秘書が登場しました。原作と同じように話が終わっていれば、もう一人の秘書はストーリー上必要がありません。ドラマではラストの場面が追加補完されたので、そのため彼女が必要になったのです。
 原作は、我掘に深い傷を負わせて我掘の家を飛び出したユリがホームレスのおじさん(我堀のもうひとつの姿)に会いに向かう後ろ姿で終わります。それが今回のドラマでは、その後の場面も加えて描かれたのです。
 原作にあったように、我堀が瀕死の状態でユリ宛て(差出人はホームレスのおじさんという体裁)の手紙を書くのですが、ドラマではその手紙をもう一人の秘書がホームレスのケンちゃんに手渡します。その手紙を読んだケンちゃんが、ホームレス我掘とユリがかつて暮らしていた場所を訪れるところでエンディングとなります。
 ユリが我堀に致命傷を与える凶器は、原作のピストルからナイフへと変更されました。


 ホームレス我掘とユリは一時期ホームレス小屋で生活を共にします。そのときの主たる食事がカップラーメンだったのも印象的でした。カップラーメンで食卓を囲む2人の幸せそうな姿がほほえましかったです。


 ドラマは、原作の面白さをうまく再現していて楽しめたのですが、今回の『世にも奇妙な物語』が大枠で“並行世界”というテーマを持っていたため、『夜の声』にも並行世界を思わせる幻想的演出が加えられ、そこがちょっと残念だったというか、話をわかりづらくしてしまったようです。