朝ドラ『半分、青い。』の『マグマ大使』オマージュ

 現在放送中のNHKの朝ドラ『半分、青い。』の劇中に『マグマ大使』ネタが出てきて手塚ファン的に心がピクンとしています。“笛を吹くと正義の味方がやってきて守ってくれる”という『マグマ大使』のアイデアが、『半分、青い。』の劇中で素敵に使われているのです。『マグマ大使』の映像もちらりと流れたり。『マグマ大使』への敬意を感じます。
 『マグマ大使』ネタがドラマ内で初めて登場したのは、4月5日(木)放送の第4回でした。主人公の女の子・鈴愛(すずめ)が同じ日同じ病院で生まれた同級生の男の子・律の家の前へ行き、2階の律の部屋に向かって3回笛を鳴らしました。そのとき『マグマ大使』の映像がわずかに流れたので、笛を吹く行為が『マグマ大使』を意識したものだと視聴者に伝わったのです。ネット上の反響がかなりあって、鈴愛の生まれた年や年齢からして彼女が『マグマ大使』のマネをしているのはおかしい、というツッコミがなされました。マンガ版『マグマ大使』の雑誌連載は1965年〜67年、テレビ放送は1966年〜67年でした。それに対し『半分、青い。』第4回の劇中の時代設定は1980年であり、鈴愛は1971年生まれの小学生ですから、彼女が『マグマ大使』のマネをするほど影響を受けているのはおかしいのではないか、という疑問が生じたのです。


 ところが、4月7日(土)の第6回放送で、鈴愛が『マグマ大使』を知っている理由が彼女の口から説明されます。鈴愛の父親が昔のマンガが好きで、鈴愛の家が営んでいる「つくし食堂」は味がいまいちなのでお客さんを呼ぶため「手塚治虫とかちばてつやとか名作マンガを全巻そろえている」ということでした。昔のマンガの好きな父親の影響で鈴愛は自分が生れる前のマンガをよく知っている、というわけです。これで、第4回放送時に生じた視聴者の疑問に対する回答が、劇中で真っ向から説明されたことになります。
 ただし、そう説明されても気にかかる点はあります。『半分、青い。』で映し出される『マグマ大使』の映像はマンガ版ではなくテレビ版のほうであり、鈴愛が笛を吹くとき彼女が意識している笛の音はテレビ版でマグマ大使を呼ぶときの音なのです。鈴愛はマンガ版『マグマ大使』よりもテレビ版『マグマ大使』の影響を受けているわけです。1980年当時はまだ家庭用ビデオは普及していませんし、ビデオソフトなんてものも流通していませんから、父親が鈴愛にテレビ版『マグマ大使』のビデオ映像を見せることはできません。なのに鈴愛はテレビ版『マグマ大使』の映像や音声を脳内で思い浮かべているのです。この点は『半分、青い。』の劇中で説明されていません。


 とはいえ、その点の説明がなくとも、私は鈴愛がテレビ版『マグマ大使』を知っていることにあまり違和感をおぼえません。私もテレビ版『マグマ大使』本放送時よりあとに生まれたのですが、東海地方では私が幼少のころ『マグマ大使』の再放送をよくやっていて、おなじみの作品でした。私と同じ東海地方に住んでいて私より3歳だけ下の鈴愛がテレビ版『マグマ大使』を知っていてその影響を受けていたとしても不思議ではない、と感じたのです。(『マグマ大使』の再放送が何年にあったか、何回あったか、といったデータ的なことはわかりませんが…)


 『半分、青い。』で見られる『マグマ大使』ネタは、笛を吹くことだけではありません。9日(月)放送の第7回では『マグマ大使』の映像が冒頭から流れ、原田知世さん演ずる律の母がゴアのモノマネを披露して、『マグマ大使』度の高い回となりました。他の回では、松雪泰子さん演ずる鈴愛の母の姿がゴアのイメージと重ねられる場面がありましたし、小学生のころの鈴愛がマグマ大使を描いたり、高校生の鈴愛がゴアを描いたり、といった場面もありました。
 
 ・『半分、青い。』の『マグマ大使』ネタに触発されて、家にあるマグマ大使グッズを捜索してみましたが、この一体だけが出てきてくれました。


 
 ・それにしてもマグマ大使の顔の凛々しさよ!


 『半分、青い。』には『マグマ大使』以外にも手塚ネタが出てきました。
 ・つくし食堂に並ぶマンガ本を確認すると、『バンパイヤ』『海のトリトン』『どろろ』『マグマ大使』『鉄腕アトム』『0マン』『三つ目がとおる』の新書判コミックスがありました。
 ・16日(月)放送の第13回で物語の時代設定が1980年から1989年へ跳びます。鈴愛の父のセリフで、手塚治虫が死んでしまって『ネオ・ファウスト』が未完のままになった、という言葉が出てきました。


 『半分、青い。』の劇中の舞台となっている岐阜県の東濃地方は私の住む市に隣接しており、作中人物たちが話す方言も私の暮らす尾張地方と似たところがあって、そうした地域的な親近感から、このドラマをもともと楽しみにしていました。それが実際に始まってみると、『マグマ大使』ネタをはじめとして手塚成分がけっこう含有されていて、手塚ファン的にも心を誘われるドラマとなったのです。