第22回手塚治虫文化賞

 6月7日、第22回手塚治虫文化賞贈呈式・記念イベントへ行ってきました。
 

 
 会場は朝日新聞社内の浜離宮朝日ホール朝日新聞社の玄関に着いたら審査員のお一人・秋本治先生がちょうど車から降りてこられるところで、今年もこのスゴい場所へ来られたんだなぁ…と感慨をおぼえました。


 
 
 今年の受賞作はどれも好きなものばかりなので、愛読者として率直に喜びを感じています。


 
 
 受付を済ませて会場へ入ると、前回まではなかった特製グッズが販売され、購入者の行列ができていました。私もクリアファイルとポストカードセットを購入。


 
 毎年、受付のところで手塚治虫文化賞特製の手塚キャラバッジをいただけるのですが、今年はアッチョンブリケピノコでした♪


 
 『大家さんと僕』で短編賞を受賞されたのは、お笑い芸人の矢部太郎さん。矢部さんの受賞スピーチは、朴訥さと笑いと感動があふれていてとても素敵でした。「芸人としてのぼくの話にこんなにも尺をくれるテレビ番組はありません」などと自虐ネタも披露(笑)スピーチの終盤は感極まったご様子でした。
 矢部さんがスピーチで「天国の手塚先生に少しでも嫉妬いていただけたら嬉しいです」と述べれば、特別賞を受賞された巨匠ちばてつや先生は、「手塚先生がアシスタントに『あしたのジョー』の載った少年マガジンを見せて「これのどこが面白いんだ!」と訊いたとき、アシスタントがこういうところが面白いんですと『ジョー』を誉めると、手塚先生はその少年マガジンを床にたたきつけ踏んづけたそうです。その話を某氏から聞いたとき、ようやく漫画家として自信を持てました」と語って、お二人の話が手塚先生の嫉妬深さネタでシンクロしました(笑)
 壇上に立たれた手塚プロ松谷社長や里中満智子先生は矢部さんのマンガの才能を絶賛し、「どうして吉本にいるのか(笑)」などと冗談めかしながら、矢部さんのマンガ界でのさらなる活躍に期待を寄せられました。


 
 
 『BEASTARS』で新生賞を受賞された板垣巴留さんは、ニワトリ(レゴム)のマスクをかぶってステージに立たれました。別の賞の受賞式でもこの格好をされたのを知っていたので、「きたー!」と興奮しました(笑) 鉄壁の顔バレ防止であるとともに、『BEASTARS』読者へのサービスでもありますね。『BEASTARS』、とてもいいマンガなんですよ。これまで触れたことのない何かに触れている!という清新な感覚を与えてくれます。まさに“新生賞”にふさわしい作品です。


 
 
 
 
 
 
 すでに大きな人気を獲得し現在TVアニメも放送中の『ゴールデンカムイ』でマンガ大賞を受賞された野田サトルさんと、本作のアイヌ語監修・中川裕教授の対談がありました。この対談から、『ゴールデンカムイ』がどれほど丹念な取材に基づいて描かれているかが伝わってきました。作中に出てくる言語ごとに専門の監修者がいるとか。
 ヒロインのアシリパさん(魅力的なアイヌの少女!)の名前は、中川教授のところに原稿が持ち込まれた時点では別の名前だったけれど、教授が変えたほうがいいと助言し、4つの候補からアシリパが選ばれた、という話も聞けました。アシリパの名前の由来は、野田さんによれば「忘れた」そうです(笑)
 野田さんが取材で何人ものアイヌの方々と会って唯一「こうしてほしい」とリクエストされたのは、「かわいそうなアイヌではなく強いアイヌを描いてほしい」でした。アイヌと和人をフェアかどうかを大切にして描いているが、そんなフェアさをよく思わない人もいて、そういう人たちの矢面に立ってくれてるのが編集の大熊氏だと感謝の意を示されたのも印象的でした。
 中川教授は『ゴールデンカムイ』の社会的インパクトの大きさを強調していました。これまでアイヌに無関心だったようなメディアもアイヌのことを取り上げるようになっており、この状況を良い方向へ持っていきたい、とのこと。


 イベントのラストは、矢部太郎さんと手塚るみ子さんの対談でした。矢部さんが手塚先生から受けた影響が語られて実に興味深かったです。手塚先生の著書『マンガの描き方』に“マンガの人体はゴムのようだ”と書かれているのですが、矢部さんの人物表現はそこから影響を受けたところもあるようです。車を描くときは『新宝島』冒頭の車が疾走するシーンが浮かぶそうです。手塚先生の偉大さを知ったのは藤子不二雄Ⓐ先生の自伝的マンガ『まんが道』を読んで…ともおっしゃいました。
 手塚マンガで特に好きなのは『火の鳥』だそうです。学校での矢部さんは図書館を逃げ場にしていて、そこに唯一置いてあったマンガ本が『火の鳥』だったのです。『火の鳥』を読むと、自分はこんな小さなことで悩んでいたのか、と思えてきたそうです。また、矢部さんは小学生のころ手塚治虫ファンクラブに入会していたこともあったとか。そんな少年が大人になって手塚先生の名を冠した大きな賞を受賞したのですから、運命の女神に微笑まれたんだなあと思います。


 会場では何名もの方とご挨拶させていただきました。ここでは、ご挨拶させていただいた方のなかでも、手塚先生ゆかりの人物を紹介したいと思います。
 

 ・小野耕世さんと鈴木伸一先生
 小野耕世さんの著書を挙げたらキリがありませんが、手塚ファンとしての私は『手塚治虫 ―マンガの宇宙へ旅立つ』(ブロンズ新社 、1989年)を最も愛読し参考にさせてもらっています。
 鈴木伸一先生はトキワ荘出身のレジェンドアニメーター。『オバQ』などに登場するラーメン大好き小池さんのモデルでもあります。藤子先生、石森先生、つのだ先生、赤塚先生たちと運営したアニメ制作会社“スタジオゼロ”の時代には、『鉄腕アトム』第34話「ミドロが沼の巻」の制作を虫プロから請け負っておられます。藤子Fアトム、藤子Ⓐアトム、石森アトム、つのだアトム…といったふうに、それぞれの個性がアトムの絵に出てしまった…という逸話は有名ですね。
 
 ・小野耕世著『手塚治虫 ― マンガの宇宙へ旅立つ』と鈴木伸一著『アニメが世界をつなぐ』


 
 竹内オサムさんと中野晴行さん
 お二人とも手塚治虫研究のトップランナーです。手塚治虫テーマの著書を複数上梓しておられます。
 竹内オサムさんの単著では『手塚治虫論』(平凡社、1992年)や『手塚治虫 アーチストになるな』(ミネルヴァ書房、2008年)などが特に手塚度が高いですね。
 中野晴行さんの単著でいえば、『手塚治虫タカラヅカ』(筑摩書房、1994年)、『そうだったのか手塚治虫 天才が見抜いていた日本人の本質』(祥伝社新書、2005年)などがまずは思い浮かびます。
 お二人とも、手塚関係のムックや研究本、コミックスなどでもよく文章を書いておられますね。
 
 ・竹内オサム著『手塚治虫論』と中野晴行著『手塚治虫タカラヅカ


 中野晴行さんからは、ドラえもんグラスや怪物くん貯金箱などいろいろなキャラクターグッズをいただきました。
 
 中野さん、ありがとうございます!!!
 イベントが終了して会場から出ようというとき、中野さんがゴダイゴタケカワユキヒデさんとお話しながら歩かれていました。私が中野さんに「今日はありがとうございました!」と挨拶すると、中野さんと一緒にタケカワさんも「お疲れ様です」といった感じで頭を下げてくださって、恐縮しつつも嬉しかったです。


 手塚治虫文化賞贈呈式・記念イベントの終了後は、鈴木伸一先生としのだひでお先生を囲んで仲間たちと夕食をとりました。
 
 鈴木伸一先生としのだひでお先生

 
 ・カンパーイ!
 しのだひでお先生を手塚ファン目線で紹介すれば“手塚先生の専属アシスタントとしては最初期メンバーのお一人である”ということです。今回の食事のときも「鳥取で『鉄腕アトム』を読んでいたころは、まさか東京で『鉄腕アトム』のお手伝いをすることになるとは思っていなかったよ」と感慨深そうに語っておられました。
 今回の夕食会には、飯田耕一郎さんや濱田高志さんも合流してくださって、濃いマンガトークが飛び交いました。飯田耕一郎さんは、虫プロ商事「COM」の編集者をやっておられたことのある人物です。漫画家として単行本も出されていますし、現在は学校でマンガ関連の講師をされたりもしています。濱田高志さんは近年、国書刊行会、立東舎、玄光社といった出版社から手塚作品の復刻本・ビジュアル本・エッセイ集成などなどマニア好みの出版物を続々と出しておられるアンソロジストです。濱田さんが現在編集されている『ダスト18』の発売が楽しみです。
 
 ・ここに写った本はぜんぶ濱田高志さんの編集です。


 というわけで、恐れ多くも手塚界隈の第一線で活躍されている方々と交流できて、たくさんのすばらしい刺激をいただける機会となりました。
 皆様、ほんとうにありがとうございます!