「2017年AIの話」


 6月25日(日)、名古屋栄の「spazio-rita」で「SFインターメディアフェスティバル 〜2017年AIの話〜」が開催されました。AIをテーマにしたトークイベントです。
 
 
 登壇者は、人工知能研究者・三枝亮さん(豊橋技科大特任准教授)と、SF作家・北野勇作さん(『かめくん』『どろんころんど』など)。AIの研究開発に携わる専門家と小説のなかでAIを描く作家、という興味深い組み合わせです。


 イベントの幕開けは、ツイッターで募集したという“人工知能っぽいSF”を紹介するコーナーでした。年表形式で発表されていきました。
 
 マンガ・アニメテーマのイベントではありませんが、やはりこのカテゴリだと『鉄腕アトム』は入ってきますね! AIの歴史において欠かせない存在ですからね。

 
 三枝亮さんのお話は「『2001年宇宙の旅』は“知能”についての映画だと思う」というところから入りました。
 
 メインの話題は“ロボットの鏡像的な認知運動学習”について。人間の乳幼児が周囲の人の動きをまねて自分の動きを身につけていくように、ロボットも人間の動きを見てその動きを覚えることができるのだとか。あらかじめ動きがプログラムされていなくても、ロボットに動きを見せることでロボットのものになるのです。
 そうやって人間に動きを教わったロボットが今度は人間に動きを教える…。それが、医療介護支援ロボットトLuciaです。Luciaの開発リーダーが三枝さんなのです。北野勇作さんの『ほぼ百字小説』にも「ロボットが他の生物に二足歩行を教える」という話があるそうで、ここでお二人の志向性に共通点が見出された格好です。
 
 Luciaの実演もありました。
 Luciaは、病院や介護施設で歩行訓練とか夜間巡回をするために開発されました。離れたら追ってきたりと人との距離の取り方が絶妙だし、眼がまばたきするのがとてもかわいいです。三枝さんいわく、Luciaの実演でどんなにすごい動きや機能を見せても「顔がかわいい!」という感想が出るのだそうです。そのくらい“AIに顔がある”というのは、物理的なインターフェイスとして重要なのです。そしてこの顔は、ロボットがどちらへ進もうとしているか・何を考えているかを周囲の人が察知するためにも重要だとか。ロボットの目線を確認することで、人間とロボットの衝突を回避できたりするのです。

 
 
 北野勇作さんのお話は、北野さんがこまれで発表してきた『ほぼ百字小説』の朗読から始まりました。北野さんは演劇もやっていらっしゃっるので、力強くよく通るお声でした。
 その後は、主に『かめくん』創作秘話的なお話となりました。
 
 ご自分が飼っている亀を見て「意外と賢い!」と感じた北野さん。亀的なものの知性を書こうと、亀型AIロボット(レプリカメ)を主人公に設定。それが、かめんくんです。 レプリカメとは、映画『ブレードランナー』のレプリカントのもじりですね♪
 かめくんの意識・知性を描くわけですから「私は○○と思った」「僕は○○と感じた」というような一人称小説がふさわしいわけですが、北野さんはかめくんが「私」とか「僕」といった自意識を持っているとは思えず、どうしようか考えたすえ「かめくん」という人称を用いることに。その人称が決まったことが、この小説を書き始めるにあたってとても重要なことだったそうです。

 
 
 休憩を挟んで、お二人の対談・質疑応答のコーナーになりました。
 ロボットの知能が進んだら人間を支配するのでは…との不安に対し、北野さんは「他者を支配しようなんて人間の発想。ロボットが人間を支配して何か得があるかなぁ。ロボットが人間を支配するというのは物語の型(宇宙人とか怪獣のように、話を盛り上げるための強い敵のひとつ)だと思う」とロボットが人間を支配することに懐疑的でした。三枝さんは「人間の立場から見たらロボットに支配されるのは悪いことだが、生物進化の観点では進化したロボットが人間を駆逐するのは自然なこと。これまでも進化した種族の登場で従来の種族が淘汰されることが自然界で繰り返されてきた。あるいは、エコの観点から、人間がイルカやクジラを保護するように、ロボットが人間を保護してくれるかもしれない」と科学者目線でお答えになりました。


 「人工知能と人間が付き合うときボディは必要か?」という問いもありました。三枝さんの研究室の女性は「ボディがないと愛せない」とおっしゃったそうです。それも一理ありますが、三枝さんは「人間は相手にボディがなくても愛せる」と言います。その最たる事例として挙げられたのが「神」でした。ただし「人間系・動物系のAIには物理的なボディは必要だろう」とのこと。


 「ニーズ」というのはすでに発見された需要であり、それに合わせてAIを開発していたら後追いばかりになる…。AIを研究開発することが、まだ発見されていないニーズを掘り起こすことにもなりうる…といった三枝さんのお話も興味深かったです。


 
 イベント終了後、北野勇作さんから『かめくん』の文庫本にサインをいただきました!
 かめくんのイラスト付ですき♪ ありがとうございます!!

 
 
 物販コーナーで未来歴史学研究室が出している「社会派SFチートガイド」と「人工知能SF事典」を購入しました。



 人工知能研究者とSF作家、という組み合わせのトークイベントだったわけですが、こうした実科学と空想科学の両面から何らかの科学的テーマを掘り下げる企画やイベントって本当に面白いですね。その面白さを私に教えてくれたのは、2003年に観た「鉄腕アトムの軌跡展 空想科学からロボット文化へ」です。
 この展覧会は、タイトルのとおり『鉄腕アトム』がメインテーマで、私もそれゆえに足を運んだわけですが、マンガ・アニメ・映画などフィクションのロボットと現実に研究開発されたロボットの両面で展示を構成しているところに興味を刺激されました。

 
 「鉄腕アトムの軌跡展 空想科学からロボット文化へ」の図録(2002年)をひっぱり出してきました。第1章「ロボット創世記」では、カレル・チャペックのR.U.Rやメトロポリスのマリアから始まって、現実に造られたロボットとフィクションのロボットが解説されていきます。ワクワクする記事内容と構成です。
 第2章は『鉄腕アトム』の解説です。この展覧会の中核ともいえるパートです。小松左京先生へのインタビューや永井豪先生のエッセイマンガも載っていて楽しめます。
 1章が「ロボット創世記」だったのに対し、3章は「ロボット新世紀」です。アトム登場以降のロボットの歴史と現在、そして未来を扱っています。
 
 図録本体に加え、「ロボット科学年表」や『鉄腕アトム』の月刊「少年」連載史を簡潔にまとめたポスターも付いていてお得感があります。