手塚先生と岡崎市

 
 ハクセキレイを撮影しました。巣作りの真っ最中でしょうか。くちばしいっぱいに巣の材料らしきものをくわえた姿がかわいらしいです。


 ハクセキレイといえば、手塚ファン的には手塚治虫先生がデザインしたピーコを思い出します。1987年に開催された「岡崎市市制70周年記念 葵博・岡崎’87」のマスコットキャラクターです。
 
 私はそんなピーコの灰皿を持っています。生まれてこのかた煙草を吸ったことがないので、使用したことはありません。煙草を吸うにしても、この灰皿を使用するなんてできないでしょう(笑)


 
 これは葵博を記念した名鉄の切符です。ここにもピーコがいます。
 手塚先生は葵博の総合プロデューサーをつとめ、ピーコのデザインのほか『岡崎の70年後』という3分間アニメーションも手掛けられました。


 手塚先生と岡崎との関係で個人的に思い出深いのは、1985年に岡崎市で開かれたシンポジウム「これからの岡崎・みんなの力でまちづくり」です。このシンポジウムに手塚先生がパネリストの一人として登壇されたのです。岡崎(のような地方都市)の今後のまちづくりに対して提言する、といった内容のシンポジウムでした。

 コーディネーター:名古屋大学教授:堀内守
 パネリスト:慶應義塾大学教授:伊藤喜栄
      国立基礎生物学研究所長:岡田節人
      愛知教育大学助教授:宮川泰夫
      漫画家:手塚治虫

 私はこの会場へ足を運べませんでしたが、1985年12月6日(金)に東海テレビの番組で特集されたので、手塚先生の発言内容を知ることができました。 
 たとえば、手塚先生の提言にはこんなものがありました(発言内言は正確な引用ではなく、私の要約です)。

●いろんなまちを見てきたが、地方都市は一様にハイテク都市を目指していて、似たり寄ったりの歩みになっている。本当にさびしい。どのまちの駅で降りても駅前の風景が似ている。そこで私は「体臭の強いまち」を提唱したい。体臭というとイヤな言葉かもしれないが、忘れられないまち、個性的なまちづくりということ。
●江戸時代を舞台にしたマンガを描いていると長屋が出てくる。長屋の入口は障子。紙一枚だけで外と内が隔てられている。それに対して、マンションや西欧型住宅は住むための合理性を求めている。近代化・合理化を優先した味気ないまちか、ごみごみしていて余分なモノが多いが将来残しておきたいモノがあるまちか…。私は後者を推したい。なにも本当に長屋や路地裏を作れということではない。そういうことを踏まえたうえで、近代都市の構想を立てていってほしい。
●きれいな青空、おいしい空気、豊かな緑を21世紀に残してほしい。岡崎ならまだそれができる。
●21世紀の岡崎にとって先端産業の誘致は欠かせないでしょう。特にバイオテクノロジー分野は21世紀にかけてレベルアップしていく。そして、21世紀には老齢化社会が訪れる。老齢化社会に向けて、いち早く設備・施設を計画してほしい。シルバーエイジモデルタウンの構想を立ててもらいたい。

 バイオテクノロジー分野を重要視し、いち早く高齢化社会に向けたまちづくりを訴えるなど、来るべき新世紀を見据えた提言はさすが手塚先生!と今になってあらためて思います。敗戦後まもない昭和20年代に初期SF3部作や『鉄腕アトム』などで豊かな空想力や幅広い知識をめぐらせて未来世界を描出していた手塚先生の未来を見るまなざしは、昭和60年代に入っても生き生きと熱いままだったのです。
 そして、きれいな青空、おいしい空気、豊かな緑を21世紀に…という提言は、エッセイ集『ガラスの地球を救え』(光文社、1989年4月30日発行)にダイレクトに通ずる精神を感じます。『ガラスの地球を救え』は、手塚先生が晩年に準備を進めながら最後までは執筆できず、先生の死後、講演会での発言などを加えて一冊にまとめられた本です。書名や序盤に収録されたエッセイ「自然がぼくにマンガを描かせた」「地球は死にかかっている」からも如実に伝わってくるように、環境問題に関するメッセージが中核をなしています。
 手塚先生の作品を読み返すと、人間と動物の軋轢、文明による自然破壊といったテーマを描いたものがたくさんあることを再認識します。当ブログで言及した作品に限って言うと、以下のような作品がそれにあたります。


 ■『鉄腕アトム』「赤いネコの巻」
 http://d.hatena.ne.jp/magasaino/20140427


 ■『ころすけの橋』『ロロの旅路』
 http://d.hatena.ne.jp/magasaino/20170210


 ■『アリと巨人』
 http://d.hatena.ne.jp/magasaino/20151103


 ■『モンモン山が泣いてるよ』
 http://d.hatena.ne.jp/magasaino/20140526


 ■『ZEPHYRUS(ゼフィルス)』
 http://d.hatena.ne.jp/magasaino/20140524



 手塚先生と岡崎の話のついでに言うと、2013年には岡崎に「手塚治虫展」が巡回してきました。
 
 

鉄腕アトム放送50周年・映画ブッダ2製作記念 手塚治虫展」
 ・開催期間:2013年04月27日(土)〜2013年07月15日(月・祝)
 ・会場:おかざき世界子ども美術博物館

 この巡回展、マンガ好きの仲間と一緒に見に行きました。
 
 ・チラシ


 
 ・入場券


 手塚作品の原画がいろいろと展示されていました。特に『アトム大使』の絵の緻密さ、描線の華麗さに恍惚としました。『人間昆虫記』や『ネオ・ファウスト』などの原画も印象深かったです。
 原稿の表と裏を見られるよう展示したコーナーにも興味を引かれました。『ブラック・ジャック』と『リボンの騎士』の原稿が1枚ずつありました。それらの原稿には、手塚先生が一度描いた絵を上から描き直した部分があり、修正前の絵が透けて見えるように工夫されていたのです。
 構想を書きとめた文章、キャラクター案、ネームなどを見せながら手塚マンガの制作過程を解説するコーナーは、何度も何度も眺めてしまいました。 手塚先生の幼少期の写真と映像。愛用のベレー帽。再現された仕事机。そうした展示品にも心を誘われました。


 
 
 有料エリアで写真撮影可だったのは、手塚キャラの集合絵とアトムの立体像のみでした。


 
 
 グッズ売場でハードカバーの図録とヒョウタンツギ付箋メモを購入!
 

 おかざき世界子ども美術博物館では、1991年にも手塚先生の展覧会を開催したことがあるそうです。私は当時そのことを知らなかったこともあって、足を運べませんでした。