生誕90年の日にどう過ごしたか

 11月3日(土)は、手塚治虫先生のお誕生日でした。しかも、ご存命なら90歳を迎えられる大きな節目のお誕生日なのでした。
 手塚先生のお誕生日には毎年何かしら先生の作品に触れることにしています。今年は『フィルムは生きている』を読み返しました。
 

 『フィルムは生きている』は、手塚先生が「もう狂うほど動画作りに意欲をもやしていたころの、ぼくの私小説(私マンガ?)ともいうべきものです」と述べておられた作品です。その意味で、この本の帯にもあるように、手塚先生の半自伝的な成分を多分に含んだお話です。


 夢を抱いて田舎から上京、ほとばしる情熱とたゆまぬ努力、数々の苦難による挫折と克服、切磋琢磨し合うライバルの登場、慕ってくれる女の子との遭遇、理解者と妨害者の存在など、青春ストーリーの諸要素がぎゅっと詰まっています。
 主人公の武蔵は、マンガ映画の作り手を目指して田舎から上京した青年ですが、彼に降りかかる苦難がじつに過酷なのです。勤め始めた動画スタジオをクビになり、5万枚も描きためた絵を燃やされ、失明の危機に陥り、自殺をはかろうとまでします。そんな苦難を乗り越えてマンガ映画の道を情熱的に歩んでいくのです。


 『フィルムは生きている』を読んでいると、マンガ映画(アニメーション)への情熱があふれんばかりに伝わってきます。手塚先生が「私小説(私マンガ)」とおっしゃったとおり、武蔵のアニメーションへの情熱は、手塚先生ご自身のアニメーションへの情熱が思いっきり投影されています。「マンガが本妻でアニメが愛人」「まんが映画は、ぼくにとって命と家族のつぎにだいじなもの」とまで語っていた手塚先生ですが、『フィルムは生きている』執筆当時は(マンガの世界では第一人者だったものの)アニメの世界では新人みたいなもの(東映動画西遊記』のスタッフになったころ)でした。だからこそ、これからもっと本腰を入れてアニメに携わりたい、自前のアニメスタジオを持ちたい、という希求が強く、その思いが『フィルムは生きている』にストレートに託されたのでしょう。


 3日は、NHKラジオ第1で特番『まんがの日特集 生誕90年!未来に語り継ぐ 神様・手塚治虫』が放送され、生誕90年の記念日を盛り上げてくれました。3時間弱におよぶ生放送で、私は最初から最後まで生で聴きました。
 https://www.nhk.or.jp/radiosp/tezuka90/
 スタジオゲストとして、手塚研究の第一人者・竹内オサムさん、カラテカ矢部太郎さん、乃木坂46伊藤純奈さが出演。常時スタジオにいたその3名に加え、午後2時台には藤子不二雄Ⓐ先生、3時台にはカサハラテツロー先生も迎えて、さまざまに手塚トークが繰り広げられました。
 宝塚の手塚治虫記念館や吉祥寺で開催中のキチムシ会場からの生中継もありました。記念館では手塚ファンの知人がインタビューに答えていたし、キチムシ会場からは主催者の手塚るみ子さんが出演され、さらに、番組内で読まれた藤子Ⓐ先生への質問メッセージも知合いが送ったものだったりして、そういう点で番組に親近感を抱きました(笑)
 本当なら記念館やキチムシの現場で手塚先生のお誕生日をすごしたかったところですが、なかなかそこまで遠征できません。だからこそ、このラジオ特番は、遠征できない私の寂しさを埋めてくれてありがたかったのです。
 この特番では、リスナーによる「未来に残したい手塚作品」投票がリアルタイムで行われ、以下のような結果が出ました。


 1位:ブラック・ジャック
 2位:火の鳥
 3位:鉄腕アトム
 4位:七色いんこ
 5位:ジャングル大帝
 5位リボンの騎士
 7位:アドルフに告ぐ
 7位:W3
 9位:どろろ
 10位:三つ目がとおる


 こういうアンケートがあればよく上位に来る常連作品が並んだかっこうですが、『七色いんこ』が4位まで来るのはちょっと珍しいかもしれません。これはやはり、ゲストの乃木坂46伊藤純奈さんが舞台で七色いんこ役をつとめたことが影響しているのでしょう。伊藤さんが番組内で『七色いんこ』の話をしていたし、この番組を乃木坂46ファン・伊藤純奈ファンが多く聴いていたということも考えられます。
 私も投票に参加しました。手塚作品の中から1位を選ぶなんて至難のワザだよな、といつも思うのですが、そう思って何も決めないでいるとこういう企画に参加できないので、えいや!と気合を入れて強引に作品を選ぶことにしています。そのときによって選ぶ作品は少し変わってくるのですが、今回は『火の鳥』に投票しました。『火の鳥』を選ぶことがけっこう多いのですが。