法月綸太郎「雪密室」

雪密室 (講談社文庫)

雪密室 (講談社文庫)

 法月綸太郎2作目の作品。デビュー作『密閉教室』よりはおもしろく読めた。本格ミステリーとしての出来がどうこうという意味ではなく、主に文体のレベルで『雪密室』のほうが好みに合っていたのだ。『密閉教室』の文体は、どこか青臭くて軽々しく、私の感覚では受け付けにくいものだった。異常に頻出する小見出しにも抵抗があった。それと比べれば、『雪密室』は落ち着いた文体ですんなり読める。
『密閉教室』は高校を舞台にした青春小説なので私の年齢に合わなかった、という見方もできるが、私は30代後半の今でも青春小説が好きで、素直に感動したりときめいたりできるクチである。たとえ作品の舞台が高校であろうと、登場人物の多くが10代の若者ばかりであろうと、それが理由で作品にのめりこめないということはない。やはり、文章の問題が大きいだろう。


 
 本作は、その後の法月作品でも活躍する、作者と同名の探偵役・法月綸太郎と、その父親・法月警視が初めて登場した作品だ。作者と同名の探偵が登場するのは、作者が尊敬するエラリイ・クイーンの作法を踏襲したもの。探偵役の職業が推理小説家で、その父親が警視で、そんな親子が協力しながら事件の謎を解いていく設定もクイーンへの敬意から来ている。

 

 山荘に招待された法月警視、その山荘で起こる密室での不可能殺人、そこに綸太郎も加わって、端正に謎が解き明かされていく。そのスタイルは、オーソドックスであり、古典的とさえいえる。「読者への挑戦」のページを挟んで謎解きに入っていく展開も、ロジックとトリックを重視する作者らしいやり方だ。