GOMAさんが描く火の鳥

 静岡市民文化会館で今月19日までディジュリドゥ奏者で画家のGOMAさんの個展『〜再生〜』が開催されました。その個展を18日(土)に鑑賞してきました。
 http://gomaweb.net/schedule/goma20tour180811-19/
 

 なぜ18日を選んだのか。関連のギャラリーイベントが開催されたからです。
 その内容がじつに盛りだくさんでして、


 ・GOMAさんのドキュメンタリー番組(ETV特集『Reborn〜再生を描く〜』)上映
 ・GOMAさん×手塚るみ子さんトークイベント
 ・GOMAさんミニライブ(ディジュリドゥ演奏)

 
 という豪華3部構成だったのです。
 こんな魅惑的なイベントが比較的遠くない静岡市で開催されるのならばこれは行かずにはおけない!とばかりに参加申込みをしました。当日に急遽立ち見整理券が配布されるほど人気のイベントだったので、早めに予約申込みして本当によかったです。
 
 ・静岡市民文化会館

 
 
 ・会館の入口に個展の案内がありました。

 
 GOMAさんはオーストラリア先住民族の楽器・ディジュリドゥの奏者として1998年から活躍してきましたが、2009年交通事故にあって脳を損傷し高次脳機能障害に…。事故で意識を失ってから2日後に目を覚まし、(それまで絵を描く生活とは縁遠かったのに)幼い娘さんの絵の具を目にすると突然筆を手に取って、憑かれたように点描画を描きはじめたのです。そして、絵を描かずにはいられない人になったのでした。
 
 
 ・個展で展示されていたGOMAさんの点描画。ほかに何点もありましたが、撮影OKなのはこの2点でした。


 GOMAさんの描く点々の一つ一つを見て「まるで原子の配列のようだ」と評した人がいます。分子や粒子に喩えた人もいますし、私も「生物の細胞の集まりのようだ!」と感じました。一粒一粒が呼吸し代謝していて、その精妙な集積としてGOMAさんの絵が息づいている、といった印象を受けたのです。


 個展の鑑賞後、時間をおいて午後5時ごろからギャラリーイベントが始まりました。まずはドキュメンタリー番組の上映です。
 この番組のなかで、GOMAさんは「後天性サヴァン症候群」と診断されました。脳の損傷によって突然絵画の才能が目覚めた現象についてそう名づけられたのです。
 事故にあってGOMAさんの生活は激変します。記憶の多くを失い、今も突然意識を喪失することがあり、ほかにも失ったもの・不安なことがいっぱいです。そんなふうになってしまった自分をまだちゃんと受け入れられない…というGOMAさん…。苦悩や葛藤に見舞われる日々…。
 番組のなかでGOMAさんは、彼と同様に脳の損傷によって音楽や数学の才能に突然目覚めた人々と会って言葉を交わします。絵画、音楽、数学と目覚めた才能は違えど、後天性サヴァン症候群の人たちと対話することでGOMAさんの心情は良い方向へ動きだします。
 そして、後天性サヴァン症候群の専門家から「新たに目覚めた絵画の才能は失われることはなく、むしろ今後も進歩してく可能性がある」と力強く言われ、そこでようやくGOMAさんの口から“安心”“ホッとした”という言葉が出るのでした。


 GOMAさんの事故後の状況や画家としての活動を見てきた手塚るみ子さんは、火の鳥を描いてみませんか?とGOMAさんに持ちかけました。GOMAさんの作品と『火の鳥』に響き合うものを感じたのです。それを機にGOMAさんは、それまで描いてきた抽象的な点描画に加え、火の鳥の点描画に(手塚治虫の存在の大きさ、作品の深さに圧倒されながらも)取り組むことになったのです。
 GOMAさんと手塚るみ子さんのトークイベントが今回開催されたのは、そういう関係性があるからです。
 
 お二人のトークイベント、とてもいいお話が聴けました。
 手塚先生の『火の鳥 復活編』の主人公・レオナは、交通事故で死亡しながらも科学的な再生手術で生き返ります。ところが脳にかかわる後遺症が出て、彼の目には人間が醜い無機物に見え、ロボットが美しい女性に見えるようになってしまいます。そんなレオナの境遇がGOMAさんと重なるところもあって、るみ子さんは、GOMAさんが火の鳥を描く行為は『GOMA復活編』だと述べられました。そして、るみ子さんはこう言います。
GOMAさんがGOMAさんの火の鳥を描く行為は『火の鳥GOMA編』が続くことでもある。手塚はまだ終わっていない…。手塚が現世でやり残したことをいま現世にいるクリエーターさんに託したい」。
 そんなお話がじつにじつに印象的でした。
 

 GOMAさんは、いったん失った意識を取り戻そうとするとき“ひかり”を見るそうです。意識を失い回復しまた意識を失い…といった体験を繰り返すうちに、その“ひかり”の映像が脳に残存するようになりました。そんな“ひかり”の世界を、そうせざるをえない衝動に押されて点描画で表現しているのです。
 手塚先生もまた『火の鳥』で何度も“ひかり”を描いています。意識の喪失と回復。生命の生と死。そんな境界線を行き来する者が見る“ひかり”を、手塚先生もGOMAさんも描いているのです。るみ子さんは両者の共通性をそこに見たようです。
 GOMAさんが、絵を描かずにはいられない精神状態について説明するとき「絵を描かないと混線が起きる」と言い表わしたのも心に残りました。その「混線」が、絵を描くことで整理されシンプルになり安定する、ということです。
 
 イベントのラストはGOMAさんのミニライブでした。ディジュリドゥの演奏は、これまで映画やテレビでしか聴いたことがなく、これが初めて生演奏を聴く体験となりました。荘重な音、どよめくような響きが、耳の鼓膜より先に腹の底に届くような不思議な感覚で、聴いているあいだじゅう心地よさと異世界感にひたれました。短いながらとても感動的なライブでした。


 イベント終了後は、GOMAさん作の点描画『夕焼けの火の鳥』の特製スカーフを物販で購入し、GOMAさんからサインをいただきました!
 
 

 そして、手塚るみ子さんと記念撮影!
 
 この日のるみ子さんもオシャレで可愛らしかったです♪
 

 GOMAさん、るみ子さん、関係者の皆様、同行してくれた友人たち、素晴らしい時間をありがとうございました!!!